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2024.11.15
内視鏡外科手術とICG蛍光法の技術は、従来の開胸手術に代わる新たな治療選択肢を提供し、より繊細で低侵襲(動物たちの身体に負担が少ない)医療が実現することが期待されています。
高性能内視鏡の利点(胸腔鏡、腹腔鏡手術)
高性能な内視鏡は、胸腔内の詳細な可視化を可能にします。拡大された鮮明な視野を用いることにより、胸管の走行を正確に特定し、病変部位の観察が容易になり、手術精度が向上します。また、小さな切開での手術が可能となり、痛みが少なく、動物たちの身体への負担が最小限に抑えられます。具体的には、5mmの小さな切開から手術を行うため、術後の回復時間が短縮され、患者の快適性が大幅に向上します。
ICG蛍光カメラシステムの重要性(ICG蛍光法)
ICG蛍光カメラシステムは、事前に投与したICGを利用して血管や胸管の状態を視覚的に確認する技術です。これにより、胸管の正確な位置をリアルタイムで把握し、必要な処置を迅速かつ正確に行うことが可能となります。胸管を損傷せずに操作を行うことで、再発リスクを低減し、犬と猫の乳び胸治療における治療結果を大幅に向上させることが期待できます。
内視鏡外科手術と従来の開胸手術の比較
内視鏡外科手術は、従来の開胸手術と比較して以下の点で優れています。
● 切開創が小さい:
内視鏡外科手術は、通常5mmの小さな切開(胸管結紮:6箇所、心膜切除:3箇所)で手術を行いますが、開胸手術は大きな切開が必要です。このため術後の痛みが少なく、回復時間が大幅に改善されます。
● 拡大された鮮明な視野を用いた手術が可能
:胸腔鏡手術は、拡大された鮮明な視野を提供し、細い胸管を明確に描出し、繊細な手術操作を行うことにより、胸管の損傷や取りこぼしを防ぐことが可能となります。
● 手術成績の向上
:内視鏡外科手術は、術後の治癒率や合併症の発生率が改善されることが多く、特に犬における乳糜胸に対する手術成績は向上し、最近の報告では90〜100%に達しています。
具体的な治療手順
ICG蛍光カメラシステムを用いた乳び胸の治療手順は以下の通りです。
* ICGの投与: 手術前にICGを注射し、体内で蛍光を発する準備をします。
* 内視鏡の挿入: 小さな切開から高精細カメラを挿入し、胸腔内の状態を観察します。
* 胸管の確認: 蛍光映像を通じて胸管をリアルタイムで確認し、精確な操作を行います。
* 胸管の処理: 胸腔鏡を用いて胸管が走行する領域を一括結紮(エンブロック法)で処理します。
* 手術後の確認: 手術後、再発の可能性を評価し、必要に応じて追加のCT検査を行い胸管結紮の確実性を確認します。
このように、ICG蛍光カメラシステムと高性能内視鏡を活用することにより、犬と猫の乳び胸治療がより正確かつ安全に行われ、動物たちの生活の質が向上します。これらの新しい技術の導入は、獣医療の未来を一層明るくするものであり、今後の発展が期待されます。
ICG蛍光法により、イレギュラーな胸管の走行の様子が確認できる。このICG蛍光法を使用することによって、胸管の損傷や取りこぼしのリスクはかなり軽減され、手術の成功率は高まります。
犬と猫の乳糜胸に対する胸腔鏡手術によって、このような小さな5mmの切開で手術が可能となり、痛みの軽減、切開創の治りの早さにより、手術後の早期回復が期待できます。
文責:江原郁也
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