胆嚢摘出術

胆嚢摘出術

人医療でも多く行われている腹腔鏡下手術のひとつに腹腔鏡下胆嚢摘出術があります。動物の胆嚢の病気は人ほど多くはありませんが、時に動物たちの命を奪うこともあります。 胆嚢は、肋骨の奥、お腹の背側に存在し、開腹手術では胆嚢を取り扱い難く非常に大きな切開が必要になります。一方、腹腔鏡下手術は大きな切開は必要なく、5mmの切開(4箇所)のみで手術を行うことが可能となり、胆嚢を体外に取り出すためのその一つの切開を2~3cmに広げます。また腹腔鏡下手術の場合、カメラを体の奥深くにすすめて観察することができるため、肝臓の構造や胆嚢の状況、胆管や血管などの臓器をしっかりと処理できます。

犬の胆嚢の病気は様々な種類があります

胆嚢炎(Cholecystitis)

胆嚢の炎症です。感染や結石、その他の炎症が原因となることがあります。犬は腹痛、嘔吐、食欲不振、下痢などの症状を示すことがあります。治療には抗生物質の投与や痛みの管理が含まれます。

胆嚢粘液嚢腫(Gallbladder Mucocele)

胆嚢内に粘液が蓄積する状態を指します。通常、胆嚢は胆汁を一時的に貯蔵し、必要な時に放出する役割を果たしています。しかし、胆嚢粘液嚢腫では、胆嚢の内部に粘液が過剰にたまり、胆嚢が膨張することがあります。

胆嚢結石(Gallstones)

胆嚢内に結石が形成される状態です。これによって胆嚢や胆道が詰まることがあり、腹痛や嘔吐などが引き起こされます。小さな結石は特定の食事や薬で管理できることもありますが、大きな結石は手術が必要な場合もあります。

胆嚢腫瘍(Gallbladder Tumors)

胆嚢に腫瘍ができることがあります。これによって胆嚢が拡大し、腹部の不快感や嘔吐、食欲不振などの症状が現れることがあります。腫瘍の種類によって治療方法が異なり、摘出手術や放射線治療が検討されることがあります。

胆嚢閉塞(Biliary Obstruction)

胆嚢や胆道が詰まることで胆汁が正常に流れず、胆汁の退色や黄疸が起こる可能性があります。胆道閉塞の原因は様々で、結石や腫瘍が関与することがあります。治療には閉塞の原因に応じて手術やその他の処置が行われます。

腹腔鏡下胆嚢摘出術のメリット

小さな切開

腹腔鏡下手術は、通常、小さな切開を必要とします。これにより、犬の体への負担が少なく、回復が速くなる可能性があります。

少ない痛み

小さな切開と腹腔鏡を使用するため、通常は犬の痛みが少なくなります。これにより、鎮痛剤の必要性が低減する場合があります。

低侵襲治療

腹腔鏡下手術は侵襲が少ないため、犬の回復が迅速で、退院までの期間が短くなることが期待されます。

消化管機能の温存

胃や腸といった消化管を外気に暴露することが最小限となることから、消化管機能が温存され、術後の食欲改善につながります。視覚的な利点:腹腔鏡を使用することで、外科医は高品質の拡大された画像を得ることができ、手術中に臓器や組織をより詳細に観察できます。

デメリット

高度な技術が必要

腹腔鏡下手術は、外科医に高度な技術と訓練を要求します。正確な手順と専門知識が必要であり、熟練した外科医が実施する必要があります。

一部の合併症

腹腔鏡下手術は通常は合併症が少ないですが、完全に合併症がないわけではありません。術後の出血、感染症、器官損傷などのリスクがある場合があります。

適応症限定

すべての犬に対して腹腔鏡下手術が適切というわけではありません。犬の健康状態や疾患の進行度によっては、開腹手術が選択肢として考慮される場合もあります。

犬の胆嚢疾患(胆嚢炎、胆石、胆嚢粘液嚢腫)に対する治療の考え方

犬の胆嚢疾患は、炎症性変化との戦いです。
長く様子を見過ぎてしまうと、胆嚢破裂、胆管閉塞、そして、胆管肝炎などの障害を肝臓にも引き起こしてしまい、手術の難易度が高くなり、手術を行ったとしても完全に治癒することが難くなります。

過去のデータをまとめますと、腹部超音波検査にて異常所見を認めた時点で、全ての犬に病理組織学的異常を認めていました。

臨床症状、血液検査の異常が認められなくても、腹部超音波検査にて異常所見を認めた場合には、相談をして下さい。

そして、動物たちの身体に優しい腹腔鏡下での胆嚢摘出術を検討して下さい。

臨床症状の発現、炎症性変化の進行とともに救命率は低下します。
胆嚢破裂、胆管閉塞症例でも腹腔鏡手術の適応を検討して下さい。その程度にもよりますが、腹腔鏡下での手術が可能となるまで進歩しています。

胆嚢疾患を持ちながら生活している動物たちが多くいると思います。早期的な発見を行い、動物たちの身体に優しい腹腔鏡手術によって治してあげることが出来ることを願います。

犬の胆嚢疾患
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