乳び胸手術

乳び胸手術

乳び胸(にゅうびきょう)は、胸腔内に乳び(リンパ液中の脂肪分を含む液体)がたまる状態です。犬や猫などの動物において、乳び胸は比較的まれな疾患ですが、深刻な状態となることがあります。

乳び胸の原因としては、主に以下の要因が考えられます。

トラウマ

外傷や事故によって胸部が損傷を受けると、リンパ管が破損し、乳びが胸腔に漏れる可能性があります。

腫瘍

胸腔内に存在する腫瘍がリンパ管を圧迫したり、破損させたりすることで乳びが漏れることがあります。

炎症や感染症

胸部の炎症や感染症が乳び胸を引き起こすことがあります。

先天性の異常

一部の個体では、乳び胸の原因として先天的なリンパ管の異常が関与することがあります。

犬や猫の乳び胸の症状には、呼吸困難、咳、くしゃみ、腹部膨満などが含まれます。症状の重さや進行度によって、治療法が選択されます。治療方法としては、乳びの原因を特定して適切な処置を行うことが一般的です。軽度の場合は食事療法や安静、薬物療法が考慮されることもありますが、重度の症例では外科的な手術が必要となることがあります。乳び胸は犬や猫の健康にとって重大な問題であるため、早期の診断と適切な治療が必要です。動物が症状を示す場合は、獣医師に相談して専門的な診察と治療を受けることが重要です。

乳び胸に対する外科的治療の3つの手技

1. 胸管結紮

胸の大動脈の背側領域に走行する胸管を結紮(けっさつ)閉鎖し、胸腔内へのリンパ液の漏れを減少させます。

2. 心膜切除

心臓を覆っている心膜を切除することによって、リンパ液の流れの抵抗を減らします。

3. 腹部乳び槽切開

お腹の腎臓の頭側付近にある乳び槽というリンパ液が集まるところを切開して胸管への流れを減少させます。

手術成績について

近年の報告を見ますと、犬においては、開放手術よりも内視鏡手術の方が、治療成績は良いと報告されており、外科的治療における成功率は約90%と報告されています。また、猫における治療成績は、開放手術と内視鏡手術を比較した報告はありませんが、外科的治療における成功率は80%と報告されています。

切開創について

開放手術

胸部に1〜2箇所の大きな切開、お腹に1箇所以上の大きな切開が必要になります。

内視鏡外科手術

3~5mm(穴のような)切開が、胸に8箇所、お腹に3箇所ほどで手術が可能となります。

内視鏡外科手術のメリット

小さな切開で負担が少ない

内視鏡手術は、従来の開胸手術に比べて切開が小さく、組織へのダメージが少ないため、患者の回復が速く、痛みも軽減される可能性があります。

視覚化に優れる

内視鏡を使用することで、手術中に高解像度の映像が得られ、外科医はより正確な操作ができます。これにより、手術の成功率が向上するという報告があります。

合併症のリスク低減

従来の開胸手術に比べて、内視鏡手術は合併症のリスクが低い傾向があります。出血や感染症などのリスクが軽減される可能性があります。

デメリット

高度な技術が必要

内視鏡外科手術は専門的な高度な技術が必要です。外科医が適切な訓練を受けていない場合、手術の成功率が低下する可能性があります。

乳び胸手術
©どうぶつ内視鏡外科ネットワーク